あの人

私の心は単純だ。

ホワイトデーに貰ったリボンの髪飾りを着けるだけで、うきうきして、その人が選んでいる様子を想像してニヤニヤしたりする。

なぜこうも、都合の良い記憶ばかりが残るのだろうか。

約束していた日をすっぽかされたことより、海水浴の帰りに「もっと綺麗な海を見せたかった」と言われたことや、「合コン行くくらいなら俺ともっと遊んでよ」と言われたことを思い出すのか。

一度は、もう二度と会わなくても平気だと心の底から思ったのに、今はまた会いたいと思うのか。

学歴が良いわけでもない、立派な仕事をしているわけでもない、真面目で真っ直ぐな人間でもないのに、なぜこうも惹かれ続けているのか。

確かに、顔は良い。これ以上顔がタイプな男とは出会わないであろうと思う程、顔が好きだ。

それだけだと思っていたが、最近は、なんとなくの感覚だが、あの人の持つ独特の雰囲気が好きなのかもしれない。

少し人とずれていて、それを全く気にしていない。

その姿に、私は憧れているのかもしれない。